前回、 Napstar(ナップスター)はそれからどうなったのか~P2P時代編において、アメリカで誕生したNapstarが裁判沙汰になり、激しい論争が行われたことを書きました。

その後サービスを停止して破産、その権利がRoxioに買収されたところまでを書きましたが、今日はその後からのことについて書きましょう。
DoCoMo F900iT
DoCoMo F900iT / raneko



新生音楽有料配信サービス、Napstar


買収から約一年後の2003年10月、Roxioは音楽ダウンロードサービス「Napster 2.0」の正式サービスを開始します。

米Roxioがついに「Napster 2.0」サービスを開始

これはクライアントソフトを利用し、そこから1曲99セントまたはアルバム9.95ドルで購入できる仕組みです。ソフト自体はそれまでのNapstarにあったようなP2Pではなく、あくまで知名度の高かったNapstarという名前のみが引き継がれています。
ここでダウンロードする音楽は、P2P時代と違いDRM技術で著作権保護が施されており、形式はDRMで保護されたWMAが中心。Napster 2.0に内蔵されているCD書き込みソフトを利用してCDに書き込んだり、音楽再生用ポータブル機器に転送は可能でしたが、無制限ではなく制約がありました。
そして、当初米国のみで展開されていたこのサービスは、日本でも展開されることも発表されました。


ナップスタージャパン、日本で定額音楽配信を開始


2004年8月、Roxioが 社名を Napster に変更します。
そして2005年、米Napstar社と大手CD販売チェーンのタワーレコードが合弁会社のナップスタージャパンを設立。サービスを始めることが発表されます。
そして2006年10月から、日本でも音楽配信サービスが開始されました。

ナップスター、今秋日本でサービス開始--サブスクリプションと楽曲課金の2方式で - CNET Japan
ナップスター、月額1280円からの定額制音楽配信サービス開始! - デジタル - 日経トレンディネット

サービスの内容ですが、上の記事によるとPC上だけで定額制対応の楽曲を楽しめる「Napster Basic」が月額1280円、ダウンロードした楽曲を対応の携帯音楽プレーヤーや携帯電話へ転送できる「Napster To Go」が月額1980円。1曲またはアルバム単位で購入できる「Napster a la carte」が150円~200円前後(1曲当たり)ということ。
そして楽曲数はサブスクリプション対応が150万曲以上(内邦楽は約2万曲)、a la carte対応が160万曲以上(内邦楽は約9万曲)だったとのこと。
多くの曲は洋楽でしたが、それでも洋楽ファンにとっては定額でいくらでも聴けるサービスは評判が良かったようです。
ポータブルプレーヤーへの転送も当時圧倒的人気だったiPodでこそ聴けませんでしたが、シャープのMP-E300やビクターのXA-C120、そのほかクリエイティブやケンウッドの製品など、わりと多くのプレイヤーで対応可能だったようです。


Docomoのうた・ホーダイと提携


さらにナップスターは2007年4月、NTTDocomoと提携し、「Napster To Go」コースを拡張する形でDocomoの音楽配信サービス「うた・ホーダイ」でナップスターの楽曲が聴けるようになります。

ナップスター、NTTドコモ「うた・ホーダイ」対応の携帯向け定額サービス

Docomoのケータイもナップスターに対応しました。主にこの時期に発売された903シリーズが対象だったようです。私もこの時期にDocomoの携帯をP903i買い換えたのですが、それの中にナップスターのチラシが入ってましたね(あくまで私見ですが、この903時代のケータイは、ガラケーのほぼ完成系だと思っています。ワンセグがついていなかったという意味でも)。
当時、ケータイで好きなだけ音楽を聴けるというのは非常に大きなメリットであり、ナップスターにおいてもこちらでの利用がかなり大きかったようです。


DRMフリー化の波


その後、米国のナップスターは2008年、それまではDRMつきのWMAで配信していたサービスを、同社がダウンロード販売するすべての楽曲をDRMフリーのMP3フォーマットに切り替えることを発表します。

米Napster、ダウンロード販売の全楽曲をDRMフリーのMP3形式で提供へ

これは先行し市場を拡大するiTunesがDRMフリーになり、その波が他のサービスにも広がってきたことから、それに乗り遅れないようにするための処置と考えられます。


ナップスタージャパン、サービス終了


しかしその2年後、2010年の5月31日、ナップスターは国内におけるサービスを終了してしまいました。

ナップスタージャパンの全サービスが5月末に終了 -AV Watch

理由としては、前述のように米国のナップスターはDRMフリーへのプラットフォーム移行を進めていたのですが、楽曲許諾やシステム運用に関する大規模な支出が必要で、日本では今後の事業の収益性が見込めないと判断したためのようです。
その結果、定額制聴き放題で購入したパソコンや携帯電話向けの楽曲はサービス終了とともに、楽曲再生できなくなったようです。


定額配信サービスは復活するか


さて、日本におけるNapstarのサービス停止から見えるものは何でしょうか。利用者の少なかったサービスが閉鎖しただけ、と捉えることも出来るでしょう。しかし、Napstar自体は利用していた人には評判が良かったらしく、これに対しては非常に残念という声があがっています。

■参考:コデラノブログ4 : 終わった… オレ終わったよママン - ライブドアブログ

ともあれ、定額で聴き邦題のサービスがなくなってしまったわけですが、私はここに需要がないとは思いません。ポピュラー音楽(とりわけCD)の売り上げが落ち込んでいる現在、まずは一曲を選んで買ってもらう以前に、まずは曲を聴いてもらうという体勢の放送以外の場での構築が必要と思われます。そういったものに、Napstarが行っていたような定額で聴き邦題というサービスは非常に向いていると思われるのです。

■関連:音楽CDが売れなくなった原因とテレビの衰退は関係があるのではないか - 空気を読まない中杜カズサ

今後、同じようなサービスがDRMフリーで、そして洋楽邦楽問わずあらゆるジャンルがある状態で展開されれば嬉しいのですけどね。


※2015/1/1追記
しかしその後、2013年あたりから、各社がこぞって定額の音楽配信サービスを始めるようになりました。たとえばソニーのMusic UnlimitedやレコチョクのレコチョクBest、KDDIのうたパス、ソフトバンクのUULA、Docomoのdミュージックといったもの。最近では携帯キャリアなどに依存しない、アプリでの提供でさらに増えています。

今すぐ使えるスマホレシピ:第25回 スマホで使える定額制音楽配信サービスまとめ (1/3) - ITmedia Mobile

Napstarは少し時代の早かった、これらの存在の先駆けだったのかもしれません。