今日のは前に『空気を読まない中杜カズサ』で書いたのと被るところがあるのですが、こちらでまとめ直しという感じで。

西暦2000年前後のインターネット、一応普及し初めてはいましたが、まだまだ発展途上だった時代。この前紹介したテキストサイトの「終る世界」「ちゆ12歳」なども、このあたりで誕生しました。
このあたりでは、インターネットにおいてあるものがよく持ち出されていました。それはエロゲー。とりわけLeaf、そしてKeyというブランドのゲーム。
DSC_7228
DSC_7228 / yoppy



LeatとKey


1996年以降、それまでPC-98が主流であったエロゲーはWindows95の発売、そして普及によりだんだんと各種メーカーで共通のDOS/V機へと移行してきました(そういえばPC-AT互換機って言葉も滅多に聞かなくなったなあ)。
その時代、PC-98の末期「ビジュアルノベル」という「かまいたちの夜」と同じようなテキスト形式のゲーム『雫』をリリースし(1996年1月26日発売)、その独特のストーリーと演出、音楽などで注目を浴びていたLeafというブランドがありました。そのビジュアルのベルシリーズの続編『痕』(1996年7月26日発売)も、同じくストーリーや演出、そして音楽のすばらしさから注目を浴びます。そして1997年5月23日に出た『To Heart』で人気が爆発します。
当時は、ちょうどWindows95がバージョンアップでインターネットへの対応をし始め、インターネットが普及し始めた時代でした。そして自分の趣味を語るための場としてインターネットが使われ始めましたが、その折それらのエロゲーについて語りたい人が増え、よくネットで話題となっていました。

そしてもう少し経った頃、1998年5月29日にタクティクスから発売された「ONE 輝く季節へ」というゲームが発売されました。それはエロゲーにはそれまで少なかった不思議なストーリーと「泣かせる」要素において、一気に話題となります。そしてそのスタッフが移籍して設立したブランドKeyから1999年6月4日『Kanon』が発売され、これも非常に話題となります。


インターネット上で盛り上がったエロゲー文化


当時はメーカーにも掲示板があり、そこで各種交流が交わされていたのですが、ユーザーの中には、自分でホームページを立ち上げて、それらのファンサイトを作る人も増えました。そのコンテンツは、自作のイラストだったり、その作品の分析論だったり、キャラクターのファンサイトだったり。昔からやっているサイトさんの過去コンテンツを見ると、それ系のレビューサイトやSS、イラストサイトだったというページがそれなりにあったりします。

それ以外にも、「○○(キャラ名)同盟」とか、ゲームのキャラクター毎のファンサイトが作られ、そこに参加して会員番号をもらい、そこメンバーでオフ会をするようなこともあったようです。たとえば『ONE 輝く季節へ』の里村茜というキャラのファンクラブとして「わっふる同盟」なんてのがありました(というか現存していた。すごいなあ)。

あと、当時からフリーソフトを作成する人はいたのですが、それらのゲームに出てくるキャラの名前などを使ったツールも数多く存在していました「詩子さん」「なぞじゃむ」等々。あと、Winampなど各種スキンでも、それらのゲームの素材を使ったものがありましたね(これは著作権的にはかなりグレーなのですが)。

また、音楽においてもこれらの影響がありました。当時自分でmidiなどで音楽を創作する人が増えていたのですが、その曲として、これらLeaf,Keyの音楽をアレンジする人がわりといたのですよね。あと「BM98」という音ゲーツールがあったのですが、それの素材に使われることも多々ありました。

ちょっとネットからは外れますが、同人の世界においても、当時「Leaf・Key」というジャンルは、男性向け(3日目)の最大ジャンルとなります。ちなみに絵のみならず同人音楽でも、当時からボーカル入りの曲が出始めていたのですが、この系統の曲をアレンジしたものを発表していたサークルが多くありました。その人たちの一部はプロとして作曲したり、歌い手はエロゲーの主題歌を歌うようになっています(中にはKeyの曲を担当した人も)。


インターネットでこれらが盛り上がった背景


どうしてそこまでネットにおいてエロゲーの話題が主流になったのか。パソコンゲームが出来る人というのは、もちろんパソコンに触れるわけで、携帯電話もネット対応していなかった当時、エロゲーのユーザーが一番ネットに近かったからというのもあるでしょう。そして当時はまだネットは隠れた存在だったので、エロの話題をおおっぴらに出しても抵抗がなかったというのもあるかもしれません。PC-98時代のニフティサーブなどのパソコン通信でもエロゲー系のフォーラムはわりとあったようなので(たとえばYU-NOの話題とか)、ある意味自然な流れだったのかもしれません。

あと、二次創作やファンサイトに対して、これらのメーカーが寛容だったということもあります。ファンサイトは歓迎、そして同人などでも趣味の範囲ならばOKという態度が多く、メーカー掲示板にもそのガイドラインが書かれていました。当時、同人系で著作権関連の事件が若干あり、不安に思っていた人もこれらを見て安心してファン活動が出来たという点もあるのではないでしょうか。もちろんそれらの作品が好きだというのが前提としてありますが。


「SS」の文化


これはサイドストーリー、もしくはショートストーリーと呼ばれるもので、要はその作品の本編に書かれていないストーリーを創作して公開するというもの。これの書き手が非常に多く、それぞれの作品の投稿サイト、リンクサイトもありました。また、メーカーにも「SS掲示板」が存在していて、そこでの投稿数は1日十何件にも上る時がありました。もちろん質はそれぞれですが。

ちなみに私もそれを書いていました。当時、数十ヒット程度でしたが「こんな見に来てくれるなんて」と感動したのを覚えています。ただ、もうどんなのを書いていたか忘れましたし、そのホームページのアドレスも覚えていません。つか、さすがにあの頃の文章を見たくはありません。悶絶すると思いますので。おそらくネット上のどこかにさまよっている可能性はあります(TripodやGeocitiesならすでに消えている可能性の方が高いですけど)。


Leaf・Key二次創作の縮小


しかし、2002年あたりから、そのようなSS、そしてファンサイトもどんどん減少してゆきます。理由はいくつも思いつきます。まずKeyでは2000年9月8日の『AIR』から次作『CLANNAD』までの発売期間が4年開いてしまい(2004年4月28日発売)、さすがにそこまで勢いが続かなかったこと。 ただ、同人で話題となっていた『月姫』のファンサイトが増えて盛り上がってはいたのですが、かつてのようにインターネット全体を巻き込む勢い、とまではいきませんでした。

一番の原因は、このあたりからインターネットも普及し、とても全体をエロゲー文化、オタク文化で覆い尽くせるものではなくなってしまったこと。あと、インターネットユーザーでも娯楽が多様化し、それぞれの趣味に分散してしまったため、以前のように何か一つのゲームに対して盛り上がるということはなくなったせいかもしれません。

正直、この時代にLeaf、Keyのゲームで盛り上がっていたというのが、特殊な条件がいくつも重なった、奇跡的な時代だったのでしょうね。


各種サイトはどうなったか


たしかに10年近くが経ち、盛り上がっていたところでも多くは閉鎖してしまいました。また、メーカーのオフィシャル掲示板でも、SS投稿掲示板どころか、掲示板自体がその役割を終えています。SSに関しては各種リンク集も閉鎖したところが多いです

りーふ図書館(書庫)
■かのんSS-Links(終了)

しかし生きのこっているところはありますし、新たに作られたものもたくさんあります。前述のように同じ流れを汲んでニュースサイトやブログをやっている人もいるでしょう。
そして昔のようにひとつの作品に集中というのではないけど、SSは数多く存在しています。


たしかにあの全体を巻き込む流れはなくても、何かの作品を愛してそれに対してインターネット上でリアクションを起こすという意思は、ずっと受け継がれているのではないでしょうか。pixivだってあれだけ盛り上がっていますしね。


■関連:Leaf・Keyのゲームがインターネット上で盛り上がりを見せた奇跡的な時代 - 空気を読まない中杜カズサ
■関連:SSは何故減ったのか。そしてSS書きはどこに行ったのか - 空気を読まない中杜カズサ